はじめに
Pythonで少し規模のある開発を始めると、こんな気持ちになったことはありませんか?
「せっかくだし、ちゃんと設計しよう」
「あとから困らないように、最初から綺麗に作っておきたい」
この考え方自体は、とても真面目で素敵です。 でも実は、ここにPython設計でよくある落とし穴があります。
それがこの記事のテーマである、「最初にやりすぎ問題」です。
クリーンアーキテクチャを意識しすぎてフォルダが増えすぎたり、 将来の変更を想定しすぎて抽象クラスやインターフェースだらけになったり……。 気づけば「動くけど、触るのが怖いコード」になってしまうこと、意外と多いんです。
しかも厄介なのは、本人はちゃんと考えて設計しているつもりなところ。 サボっているわけでも、雑に作っているわけでもない。 むしろ「良いコードを書こう」と頑張った結果、苦しくなってしまう。
この記事では、そんなPython設計における「最初にやりすぎ問題」について、
- そもそも何が「やりすぎ」なのか
- なぜ人は最初にやりすぎてしまうのか
- どうすれば実務でちょうどいい設計に落とせるのか
を、できるだけ現場目線・実利重視でお話ししていきます。
クリーンアーキテクチャやデザインパターンを否定する記事ではありません。 むしろ、「どう付き合えばPythonで楽になるか」を整理するのが目的です。
「最近、設計を考えるのがしんどいな……」 そんな気持ちが少しでもあるなら、ぜひこのまま読み進めてみてください😊
1. Python設計における「最初にやりすぎ問題」とは何か
まず最初に整理しておきたいのが、この記事で言う 「最初にやりすぎ問題」とは何か、という点です。
これは一言で言うと、
「今の要件では不要な複雑さを、将来のために最初から持ち込んでしまうこと」 を指します。
一般的には「オーバーエンジニアリング」と呼ばれる状態ですね。
たとえば、こんな経験はありませんか?
- まだ1つしか実装がないのに、将来の差し替えを想定して抽象クラスを作る
- 設定が増える前から、DIコンテナや複雑な初期化処理を導入する
- 小さなスクリプトなのに、レイヤー構造だけは大規模システム級
どれも「考えていない」わけではありません。 むしろ考えすぎているのがポイントです。
特にPythonでは、この問題が起きやすい傾向があります。
Pythonと「設計のやりすぎ」が噛み合わない理由
Pythonはもともと、
- 動的型付け
- 関数もクラスも第一級オブジェクト
- 標準ライブラリが非常に充実している
という特徴を持った言語です。
つまり、あとから構造を変えやすいことが大きな強みなんですね。
にもかかわらず、 Java や C++ 向けに考案された設計パターンやアーキテクチャを、 ほぼそのままPythonに持ち込んでしまうと、
- コード量が一気に増える
- 追いかけるファイルが増える
- 変更の影響範囲が見えにくくなる
といった状態に陥りがちです。
「ちゃんと設計したはずなのに、なぜか触るのが怖い」 これは、まさに最初にやりすぎてしまったサインです。
Python設計で大切なのは、 最初から完成形を目指さないこと。
まずは今の要件を、最小の構造で安全に満たす。 その上で、必要になったときに広げられる余白を残す。
この感覚を持っているかどうかで、 プロジェクトのしんどさは大きく変わってきます。
なお、「やりすぎ設計」がどんな形で後から問題になるのかについては、 次の記事で具体例をたくさん紹介しています。
2. なぜ人は最初にやりすぎてしまうのか(心理と背景)
では、なぜ私たちはPython設計で 「最初にやりすぎてしまう」のでしょうか。
ここには、技術的な話だけでなく、 エンジニアなら誰でも抱えがちな心理的な要因が深く関わっています。
将来への不安と「YAGNI原則」の無視
一番多い理由は、とてもシンプルです。
「あとから困りたくない」
将来、仕様が増えたらどうしよう。 データベースが変わったら? 別のAPIに切り替わったら?
そう考え始めると、 「今のうちに抽象化しておこう」 「差し替えられる構造にしておこう」 という判断になりがちです。
でも実務では、その 「いつか」が来ないことも本当に多いんですよね。
これは YAGNI(You Aren’t Gonna Need It)原則、 つまり「必要になるまでは作らない」という考え方を、 無意識に無視してしまっている状態です。
技術的好奇心と「ちゃんとした設計」への憧れ
もうひとつ大きいのが、技術的好奇心です。
クリーンアーキテクチャ、デザインパターン、DI、レイヤード設計…… 勉強すればするほど、 「これを使えばプロっぽいコードになる気がする」 と思ってしまいます。
特にPythonは書きやすい分、 「設計くらいはちゃんとしないと」 と無意識にバランスを取ろうとしがちです。
その結果、 課題の大きさに対して設計だけが先に成長してしまう という状態になります。
Pythonの強みを信用できていない問題
実はこれ、かなり根深い理由です。
Pythonには、
- 柔軟なモジュール分割
- 関数・クラスの差し替えやすさ
- 強力な標準ライブラリ
といった「あとから整えやすい」武器が最初から揃っています。
それなのに、 「標準機能だけだと不安」 という気持ちから、 自前で複雑な仕組みを作ってしまうことがあるんです。
このあたりは、次の記事でも詳しく解説しています。
評価・経歴を意識した「履歴書駆動設計」
これは少し耳が痛い話かもしれませんが…… 「履歴書に書けそうかどうか」を意識してしまうケースもあります。
クリーンアーキテクチャを採用しました。 DIで疎結合にしました。 レイヤー分離を徹底しました。
たしかに見栄えはいいです。 でもその結果、 開発スピードと保守性が犠牲になっている なら、本末転倒ですよね。
設計はアピールのためのものではなく、 自分やチームを楽にするための道具です。

この視点を一度忘れてしまうと、 最初にやりすぎる方向へ、簡単に流されてしまいます。
3. よくある「やりすぎ設計」の具体例と、実際に起こる弊害
ここでは、Python設計の現場で本当によく見かける 「最初にやりすぎてしまった例」をいくつか紹介します。 もし「これ、やったことあるかも……」と思ったら、 それは設計を見直すサインかもしれません。
あわせて、こうした設計が 後からどんな形で効いてくるのか も正直に書いていきます。
Flyweightパターンの過剰実装
まずは、設計パターンの代表例から。
「同じオブジェクトが大量に作られるから、 インスタンスをキャッシュして再利用しよう」
そう考えて、__new__ をオーバーライドし、 クラス変数でインスタンス管理を始めるケースがあります。
一見すると、賢そうな最適化に見えますよね。
でもPythonでは、 本当にそこまでの最適化が必要な場面はかなり限られています。
その結果どうなるかというと、
- サブクラス化した瞬間に挙動が壊れる
- どこでインスタンスが生成・共有されているのか分からない
- デバッグが異常に難しくなる
しかも、後から読む人には 「なぜこんな実装になっているのか」が全く伝わりません。
パフォーマンスが本当に問題になるまでは、 素直なクラス設計のままで十分なことがほとんどです。
Prototypeパターンの誤用
次に多いのが、オブジェクト生成まわりのやりすぎです。
「オブジェクトを複製したいから」という理由で、 clone() メソッドを自作するケースを見かけます。
でもPythonでは、
- クラス自体をオブジェクトとして渡せる
- 関数やラムダで生成処理を表現できる
という柔軟さがあります。
たとえば、
factory = lambda: MusicalNote(note="C5")
これだけで十分な場面も多いんですよね。
にもかかわらず、 パターンを守ること自体が目的になってしまうと、 コードが説明過多になっていきます。
AI・LLMプロジェクトでのフォルダ分割地獄
最近特に増えているのが、AI・LLM系プロジェクトでの例です。
クリーンアーキテクチャを意識するあまり、
- domain
- application
- infrastructure
- interfaces
といったフォルダに、 すべてのファイルを物理的に押し込んでしまうケース。
その結果、
- 循環インポートが頻発する
- どこにファイルを置くかで毎回悩む
- ちょっとした修正でも複数ファイルをまたぐ
という「構造疲れ」が起きます。
実はこれ、 設計が悪いというより、設計の使いどころを間違えている だけなんです。
フォルダ構成について悩みがちな人は、 次の記事もあわせて読むと、かなりスッとします。

「ちゃんと設計しているのに、なぜか開発が遅い」 そんなときは、 設計そのものより“やりすぎていないか” を疑ってみるのが大切です。
4. 「最初にやりすぎない」ための実利的な設計ステップ
ここからは、どうすれば 「最初にやりすぎない設計」 にできるのかを、実務ベースで整理していきます。
ポイントはシンプルで、 最初から完成形を作らないことです。
ステップ1:物理フォルダではなく「仮想レイヤー」で考える
クリーンアーキテクチャを学ぶと、 どうしてもフォルダ構成から整えたくなります。
でも最初の段階では、 物理的なフォルダ分割は後回しで大丈夫です。
代わりに意識したいのが、次のような 概念的なレイヤーです。
- Domain層:純粋なビジネスオブジェクトと最小単位のロジック
- Application層:処理の流れ・ユースケース
- Infrastructure層:外部API、DB、LLMなどの具体実装
- Serving層:CLI、Web API、バッチなどの入口
大事なのは、 「今このコードはどの層の責務か?」 を意識することです。
フォルダは1つでも、頭の中でレイヤーが分かれていれば、 後から分割するのは簡単です。
ステップ2:依存関係の向きを守る
設計で本当に守るべきなのは、 依存関係の向きです。
具体的には、 外側(Infrastructure・Serving)が 内側(Domain)に依存する形を保ちます。
「DBを変えても、ビジネスロジックは変わらない」 「LLMを差し替えても、処理の流れは同じ」
こうした状態を目指しますが、 最初から完璧な抽象化は不要です。
差し替えが本当に発生したときに、 初めてインターフェースを切れば十分なケースも多いです。
ステップ3:アクション単位でコードをまとめる
「prompts」「nodes」「chains」など、 種類ごとにフォルダを切ると、 関連コードが散らかりがちになります。
代わりにおすすめなのが、 1つのタスク単位でまとめる設計です。
たとえば、
- 処理ロジック
- 使うプロンプト
- 設定や補助関数
を1モジュールに閉じ込めます。
こうしておくと、 「この機能、別プロジェクトでも使えそう」 と思ったときに、 そのままコピーできる設計になります。
ステップ4:「3回の法則」でリファクタリングする
最初から共通化しない、というのは不安に感じるかもしれません。
そこで役に立つのが、 「3回の法則」です。
同じようなコードや違和感が 3回出てきたら、 その時点で共通化や抽象化を検討します。
これは「手戻りを恐れない」ための、 とても現実的な判断基準です。
リファクタリングの考え方や進め方については、 次の記事が参考になります。

設計は一度で決めきるものではありません。 動かしながら整えるくらいが、 Pythonではちょうどいいんです。
5. クリーンアーキテクチャとの正しい付き合い方
ここまで読んで、 「じゃあクリーンアーキテクチャって、Pythonでは使わない方がいいの?」 と思った方もいるかもしれません。
結論から言うと、そんなことはありません。
ただし大事なのは、 クリーンアーキテクチャを“ルール”として扱わないこと です。
クリーンアーキテクチャは「守る型」ではなく「考え方」
クリーンアーキテクチャは、
- 依存関係を内側に向ける
- ビジネスロジックを外部要因から守る
- 変更に強い構造を作る
という設計の指針を示したものです。
ところが実務では、
- フォルダ構成を完全再現しようとする
- すべてをインターフェース越しに呼ぶ
- 抽象クラスが増え続ける
といった形で、 形式だけをなぞってしまうケースが少なくありません。
これでは本来の目的である 「変更しやすく、理解しやすいコード」から どんどん離れてしまいます。
Pythonでは「縮小版クリーンアーキテクチャ」で十分
Pythonの場合、 最初からフルセットのクリーンアーキテクチャを 適用する必要はほとんどありません。
まずは、
- ビジネスロジックとI/Oを分ける
- 外部ライブラリの影響範囲を限定する
- テストしやすい形を保つ
この3点を意識するだけでも、 設計の質は大きく変わります。
フォルダが1つでも、 クラスが数個でも、 依存関係が整理されていれば十分クリーンです。
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もし、 「なぜこの考え方が生まれたのか」 「どこまで守るべきで、どこから崩していいのか」 を一度きちんと整理したいなら、 原典に触れてみるのもおすすめです。
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すべてを真似する必要はありませんが、 「設計をどう考えるか」の軸を持つには とても良い一冊です。

大切なのは、 設計を信仰しないこと。
クリーンアーキテクチャは、 あくまで判断を助ける地図であって、 進み方を縛る檻ではありません。
まとめ
Python設計でよくある「最初にやりすぎ問題」は、 技術力が低いから起きるわけではありません。
むしろ、 ちゃんと考えようとしている人ほど陥りやすい 落とし穴です。
将来の変更が不安で、 学んだ設計理論を活かしたくて、 評価されるコードを書きたくて―― その結果、今の要件には重すぎる構造を 最初から背負ってしまう。
でもPythonは、 あとから整えることが前提で強い言語です。
最初に意識したい優先順位は、とてもシンプルです。
- まずは今の要件を、最小の構造で満たす
- 依存関係の向きだけは壊さない
- 抽象化は「必要になったら」やる
クリーンアーキテクチャやデザインパターンは、 守るべきルールではなく、 判断を助けるための考え方です。
設計の正しさよりも大切なのは、 理解しやすく、直しやすいこと。
将来を完璧に予測する設計より、 変更が来たときに落ち着いて直せる設計のほうが、 結果的にずっと強くなります。
「これ、ちょっとやりすぎかも?」 そう感じたら、設計を疑うのではなく、 設計の優先順位を見直してみてください。
それだけで、Python開発は ぐっと楽になるはずです😊
設計の考え方を、無理なくインプットしたい人へ
設計の話は、一度読んで終わりではなく、 何度も触れて少しずつ腹落ちしていくものです。
スキマ時間で設計思想に触れたいなら、 耳で学べるサービスや読み放題も相性がいいです。
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設計は「正解を覚えるもの」ではなく、 考え続けるための道具です。
よくある質問(Q&A)
- QクリーンアーキテクチャはPythonでは使わない方がいいのでしょうか?
- A
いいえ、使わない方がいいというわけではありません。 ただし、Pythonではそのままフルセットで適用する必要はないケースがほとんどです。
クリーンアーキテクチャは「フォルダ構成」ではなく、 依存関係の考え方や責務分離の指針として捉えるのがポイントです。 Pythonでは、規模に応じて縮小した形で取り入れる方が、 開発スピードと保守性のバランスを取りやすくなります。
- Q抽象化していいタイミングは、どうやって判断すればいいですか?
- A
一番おすすめなのは、 「同じ違和感を何度も感じたかどうか」 で判断することです。
同じようなコードや分岐が2回程度なら、 まだ偶然の可能性があります。 3回以上出てきて「これはさすがに共通化したい」と感じたら、 その時が抽象化のタイミングです。
最初から未来を予測して抽象化するより、 実際の使用実績をもとに設計を育てていく方が、 Pythonでは失敗しにくいです。
- Qすでに「やりすぎた設計」になってしまった場合、どう直せばいいですか?
- A
まず大切なのは、 一気に直そうとしないことです。
いきなり構造を壊すのではなく、 「ここは本当に抽象が必要か?」 「このレイヤーは責務を持ちすぎていないか?」 といった問いを立てながら、 少しずつシンプルな方向へ寄せていきます。
使われていないインターフェースを消す、 実装が1つしかない抽象を戻すなど、 小さな改善を積み重ねるだけでも、 コードは驚くほど読みやすくなります。











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